ローストビーフはインドシナの森の味

カンボジア東部の山間の村、モンドルキリで食べたローストビーフ。鉄の簀子(すのこ)の上には遠火の炭でじっくり焼き上げた牛肉の塊が乗っている。
売り子はクメール人と華僑の混血、シーノクメールの人たち。肉塊には皮がついているので、子牛だろう。じっくりと時間をかけてローストしているので切り取った肉の内部はうっすらと赤を帯び、西洋風のローストビーフのような優しい味がする。透明感のある牛皮も弾力があり、山の素朴な味実を深めている。

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食べたい部位を示し、「この辺を、このくらい下さい」と注文した。
ソースは発酵させた魚とハーブを混ぜ合わせたクメール伝統の調味料、プラホックにライムの汁を加えたもの。付け合わせの野菜はバナナの蕾、山間で収穫する野生のハーブが大皿いっぱいに盛られている。

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カンボジアとベトナムの国境付近の山やまの眺め。奥に幽かに見える山やまはベトナム領に入っている。
陸路のゲートがない国境付近は人の往来も少なく、豊な自然が残っていることが多い。そこには山に暮らす人たちの往来が細々とあるだけで、村を離れて山間の小道にオートバイを走らせると、やがて舗装路は途切れ、赤土が露になった「山の道」が旅人を深い森へ誘う。
南国といえど標高の高い山岳部は寒く、雨期のスコールに見舞われると体温も一気に下がる。こんなときには何か温かいものでも食べて、スコールが去っていくのを待つばかり。

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ベトナムの山といえば高原の街ダラット郊外に広がるランビアン山脈が山の旅の終着地として昔から有名で、戦前の仏印を舞台にした林芙美子の小説では日本人の林間技師がこの山岳地帯を訪れる描写がある。
ダラットから山奥の村に延びる小道をいくとフランス植民地時代に敷設された線路の名残があり、所々に朽ちた廃駅が林業が盛んだった往時を忍ばせる。女流小説家がインドシナの山を訪れてから80年が経過した今、この一帯では森林は姿を消し、丘陵地帯は畠となり高原野菜が栽培されている。インドシナの山や森も減少の流れにあり、本当の田舎の旅の途上で「野生の味」に巡り会うことがだんだん難しくなってきているのが残念だ。

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ベトナムの山奥は、野鶏の料理が美味しい。中部ベトナムから南部ベトナムの山あいだと、東南アジアの森に生息していた赤色野鶏の血をひく鶏を専門にした店を見つけることができる。
料理方法は、豆腐乳を付けた炭焼き(Gà nướng chao)またはレモングラスや生姜と炒めた料理(Gà xào sả) など。(Ken)

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旅の途中に立ち寄った村の商店にて。

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焼畑で消え行く原生林。

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山から村に帰る。真っ暗になるまでの数刻、子どもたちが大人に連れられて広場に遊びにくる。