ベトナムの華人(2)

華人のくらしは浮氷のくらし。

19世紀の後半から20世紀の初頭にかけて、多くの華僑が東南アジアに移住し、華人コミュニティーを作りだした。メコンデルタには「福建会館」や「潮州会館」などの華僑の寄合い所が残っているし、華人の子息が通う学校もわすかではあるが現存する。

サイゴンの中華街ショロンには華人経営の飲食店も多い。華僑が経営する麺家にはHủ tiếu というもっちりとした食感の麺や、おなじみの雲呑麺もある。ベトナム語で Cơm gà kiểu Singapore と呼ばれる「海南鶏飯」専門の店もある。夕方になると民家の壁に沿って魚粥や魚麺を売る屋台が目につき、いかにも華人の街という雰囲気がある。

華人の飲食店は例外なく質素な店づくりだ。従業員が多いので活気はある。しかし壁や床は1970年代のしつらえのままで、厨房設備も古いものを使っている飲食店が多い。華人は店の内装や設備には投資をせず、様々な現状を維持しながらこつこつとお金を稼いでいる。他民族の国家に間借りをして住む華人にとって、いつ政情不安により生活の基盤を失うか判断がつかない中、店の装飾に投資するわけにはいかないのである。

華人の地位や生活が安定しているタイでは感じることのない脆さを、ベトナムの華人街では感じる。ショロンは人口が多いので始終雑多な感じはあるが、経済的に恵まれた街に特有の「論拠のない自信」を感じない。しかし、その替わりに寂れた街特有の空気感があり、刺々しさがなく、心落ちつく街ともいえる。

サイゴンに3代住む華人家族が、昨年一時的に中国に里帰りした。
ベトナムに戻ってきた主人に尋ねた。
「故郷は楽しかったか?」
主人が答える。
「ベトナムにいる方が気楽で良い、人も少なくて良いね」

トップの写真はショロンの路地裏でみかけた麺の屋台。夕方から営業する。(Ken)

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