インドシナの魚醤

日本の醤油のように、魚醤にも一番搾りがある。

魚醤はクメール語で「トゥック・トゥレイ」、ベトナムでは「ヌクマム」と呼ばれ、それぞれ「魚の水」や「漬けた水」という意をもつ。
ラオス語の「ナムパー」はタイの「ナンプラー」に近い響き。今のラオス人と北部タイ人は祖先を共にする同族のため、単語や表現に共通することが多い。

製法は単純で、ヌメリを洗った魚と塩に少々の麹や米を入れて数ヶ月熟成させる。麹や米を加えることで、酵素による発酵を促すのだ。
ぜひ我が家でも作ってみたいと思うが、東南アジアの魚醤の工場では背丈を越える大きな樽に原料を漬け込んでいるから、手頃な小さな瓶でどこまで頑張れるかが肝になる。淡水魚でぜひ試作してみたいと思うが、発酵食品ゆえにご近所が寛容であることを望むばかり。

新鮮な魚醤は透明な赤褐色をしていて、淡白質の含有が多い魚醤ほど高級品とされている。
これは一番搾りの魚醤には最初に漬け込んだ魚肉から溶け出した淡白が溶け込んでいるからで、搾り滓に塩水を加えた魚醤は淡白が少ないということ。

海辺の売店で、海水浴の客がせっせとヌクマムを買っている光景を見かけるが、誰も彼もがヌクマムの淡白の含有量を売り子に厳しく問いただしている。普通に出回っているヌクマムは、淡白含有の割合がラベルにも示されているが、業者によっては淡白成分をあとから加えることもあり、みなが真剣になってヌクマムを買い求める背景には、それらをごまかしたり、騙されたりの経験があるのだろう。

食品の着色は日本でも問題になっているが、色の鮮やかな食べ物は美味しそうに見えるものだ。
保存食や発酵食品は製造過程を考えれば、素材がもつ天然の色素がぬけ落ちることは普通だと思う。魚醤も鮮やかな赤みのある液色のものが好まれる。
東南アジアでは食品を赤色に着色する際にインド原産の香辛料が使われることがあるので、もしかしたら香辛料で赤色を補っているのかもしれない。ともあれ魚醤の生産者が液色に工夫をこらしているのはまちがいない。

魚醤の原料となる魚はカタクチイワシが有名だが、淡水魚も魚醤の原料になる。一般的には海水魚を発酵させた魚醤のほうが味が良いとされているが、淡水魚から絞り出した魚醤も味わいは深い。どちらが美味しいかということではなく、それぞれが違うということに留めておきたい。

一番搾りの魚醤はベトナムでは、ヌクマム・ニー ( Nước mắm nhĩ )とい呼ばれ珍重されている。魚醤は製造方法も大切だが、産地と原料の魚の種類も味の決め手になる大切な要素だ。そこで馴染みのサイゴンの下町の酒場で、店のオバちゃんに魚醤のあれこれを尋ねてみた。

以下が美味しいどころの魚醤(情報提供はオバちゃん)。

・漁師町ファンティエット産のカー・コム Cá cơm(カタクチ鰯)を搾った魚醤。

・中部のビンディン省の特産、カー・チー・バン Cá chỉ vàng(アジ)の魚醤。

・シャム湾に浮かぶ島、フーコック島の名産の魚醤。原料はカタクチ鰯。


淡水のものではカー・リン Cá linh(鯉科)というニゴイやオイカワに似た魚を塩漬けしてつくった魚醤がある。カンボジアのトンレサップ湖で捕れる魚からできる「トゥック・トゥレイ」は雑味のない良い味がする。三期作を行わないカンボジアは米が美味しいので、私はよく魚醤をごはんに振りかけて食べる。

購入後の魚醤は色を見れば鮮度の善し悪しがわかる。魚醤は酸化すると黒褐色に変色し,風味もなくなってしまう。実はあまり長期保管には向いていない調味料なのだ。

ちょうど、ベトナムとカンボジアを訪れているので、これから旅先で食べる魚醤のレポートも少しづつ掲載しようと思います。

トップの写真はファンティエットの手前の街、フックホイ(Phước Hội)の港。(Ken)

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田舎の市場で調味料を探す。

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ヌクマムとカラメルで煮込んだ自家製の豚足。瘤蜜柑(こぶみかん)の葉と八角を効かした優しい味です。